2014年 04月 18日
吃音基礎知識
担当者:伊藤 伸二
参加者:22名(うち初参加者5名)
この日は、大阪吃音教室に取材のカメラが入いりました。川村さんという名の、自らも苦労した吃音のことを啓発するテレビ番組を制作している若い男性が、東京から大阪吃音教室を取材するために来阪されたのです。
この日の例会は、伊藤が川村さんを紹介し、取材の説明をするところから始まりました。
この日の取材のために伊藤が用意したのは、「人が生きることの基本設定としての吃音」というテーマです。
歴史上、はるか昔から存在が知られている吃音は、人がともに生きるものとして基本設定されている、それを治そう、否定しようとするところに無理が生まれ、苦悩が生まれる、というのが伊藤の発想で、最近、機会があるたびに文章に書き、人に話していることです。
この日は、伊藤自身をはじめ、大阪吃音教室の常連メンバーが、さまざまな角度から自分たちの体験を振り返り、「基本設定を崩そうとして、どんな無理がはね返って来たか」「自分のどもりを認め、現状を肯定的に見直してどれだけ楽になったか」を語り合いました。
この日話題になったさまざまなエピソードのうち、ここでは、昨年6月の吃音者世界大会(オランダ大会)の会場で、伊藤と長時間話し合った、イギリスの作家デイヴィッド・ミッチェルさん[※]の体験談を紹介します。
若い頃のミッチェルさんは、自らのうちにあるどもりと戦い続けました。
自分がどもりを憎み、戦えば戦うほど、どもりも自分を憎み返し、攻撃して来て内戦状態になりました。
このままでは自分が壊れていくと感じ、戦いに絶望したミッチェルさんはあるとき、自分自身の一部であるどもりと戦うことをやめ、折り合おうと決心します。
「どもりさん、君は居ていいよ」と。
すると、「どもりさん」の方も、「お前も居ていいよ」と、語り掛けて来たそうです。
伊藤によると、ミッチェルさんはそのときのことを、こんな風にも話したそうです。
「自分のDNAに組み込まれているどもりと戦うのを、もうやめようと思った」
ミッチェルさんが使ったDNAということばは、伊藤の言う「基本設定」と似た意味ではないでしょうか。
※デイヴィッド・ミッチェル(David Mitchel):イギリス出身、アイルランド在住の小説家。日本の広島で英語講師として8年過ごした経験を持ち、日本語を話すことができます。奥さんは日本人です。2012年に世界中で大ヒットした映画『クラウドアトラス』の原作"Cloud Atlas"(2004年出版)は、ミリオンセラーになりました。2006年に出版した、吃音を持つ少年を主人公とする自伝的小説"Black Swan Green"は、イギリスの言語療法の教育課程の教材として広く使われています。
※※ここで紹介したデイヴィッド・ミッチェルさんの吃音を巡る体験談は、オランダ大会でミッチェルさん自身が伊藤に語った内容が元になっています。
同じ内容を別の角度からまとめたものが、ご本人の寄稿の日本語訳として、日本吃音臨床研究会機関紙『スタタリングナウ』2013年10月号に掲載されています。
問合せ先:日本吃音臨床研究会
【初参加者感想】
〇今日初めてここに来て、自分がこれまでどもることをどれほど否定的に考えて来たかが分かりました。今日の話し合いに参加して、そんな風に考えなくてもいいんだと思いました。
〇今日の話を聞いても、やっぱり自分はどもりを治したいです。でも、「治さない」という考え方もあるんだと分かりました。
〇自分は吃音ではないのですが、言語聴覚士を目指しています。これまで、どもりのことが勉強していてもよく分かりませんでしたが、今日初めて少し分かった気がします。
〇自分もどもりで長年苦労して来たので、今日の皆さんの話を「よく分かる、よく分かる」と、ずっと頷いて聞いていました。今はまだ、上手に喋ろう喋ろうとしている自分があります。もっとさらけ出して行きたいと思います。
by osp_blog | 2014-04-18 00:00 | 例会報告